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2015/10/08

『過ぐる日のやまねこ』黒沢清監督&鶴岡慧子監督 トークイベントレポート

yamaneko_1007_1.JPG10月7日(木)、渋谷ユーロスペースにて、鶴岡慧子監督の東京藝術大学大学院時代の師・黒沢清監督をお招きしてトークイベントを行いました。先週の万田邦敏監督に続き、師弟対談第2弾をレポートします!

黒沢監督:『過ぐる日のやまねこ』とても不思議な青春映画でしたね。主人公が東京から田舎へふらっとやってくる設定自体はどこかで聞いたこともあるんですが。あらすじを読むと「主人公の女性が東京から上田に行く」ことはわかるけど、何も知らずに観ると、彼女が何処を旅立って、何処に着地したんだろうというのが、なにかこう、すごく曖昧で、そこが不思議な感じの原因なのかなと。主人公が乗ってきたバスも、なんかものすごいインチキ臭いよね(笑)。意図的なのか無意識かわかりませんが、よくある田舎道をバスがやってきましたとか、わかりやすい田舎の風景が見えましたとか、そういう瞬間が一切なくて、いつの間にか、彼女の背景に森らしいものが見えて、だんだんそういう雰囲気が醸しだされてきて。なにかふわーっと、夢のように移行している。いつの間にか場所がふわふわと移動しているような感じで、それがとても不思議な印象でした。鶴岡監督が得意とする、上田市ってそういう場所なんですか?

鶴岡監督:たぶん外の人が見ると、わかりやすい長野県の田舎という場所なのでしょうが、私はその中で生まれ育ってしまったので、田園風景とかよりもどちらかといえば鬱蒼とした森、とかの方が私の中のふるさとの風景だったりして、そういうのって位置づけにくい、というのが私の中にあって。たぶん内側にいる人間だから曖昧になっちゃうんでしょうかね。

黒沢監督:上田市だから上田市っぽく撮るというよりも、明らかに東京ではないけど、特定のどこという場所ではないのだ、という狙いがあったのでしょうかね。幾つかのカットでも、あえてどこにいるか分からなくしている、印象的なシーンがありましたが。

鶴岡監督:意図的なのかどうかは微妙ですね。物理的な問題なのかな。

黒沢監督:野次馬を避けるためにあえて空抜けで撮るとか、東京のロケではよくあるんですけどね。今回は自然にそうなった感じですか?

鶴岡監督:自然にそうなったんでしょうね。

黒沢監督:そして、彼女がそこに住んでいる男の子と会って、何やら危なっかしい関係になって。でも一体、どういう危機が2人に訪れつつあるのか。はっきりはわからないんですね。ただ非常に印象的だったのが、同級生の女の子が「ダメだよ行っちゃ!」って男の子に言うんです。彼女の存在は素晴らしかったですね。彼女ただ一人が、この2人が出会うことを非常に警戒していて、彼女が出てくると「あ、これは何かただ事じゃない事が起こってるんだな」と、2人にかつて何やらやばい事があったらしいことがわかってくる。その辺の危なっかしさというか、やばさはどれくらい描こうとした、あるいは伏せようとしたとか、そういうのはあるんですか。

鶴岡監督:全ての事柄があまり白黒ついてない風になっているのは、わりと意図的なものですね。田舎だと、そういう「よくわからないこと」ってたまに起きるんです。非常に不可解なこととか、「あの家って誰が住んでいるんだろう...?」みたいな家があったりするんですね。そういうものを描こうとした所があるのかなと思います。

黒沢監督:現実に近い経験があったんですか?誰もいない小屋を開けたら動物の剥製があったとか。

鶴岡監督:これは私の体験じゃなくて、友達の経験なのですが、実際に(小屋を)開けたら「モナリザ」があった事はありました(笑)。

黒沢監督:モナリザ(笑)?モナリザがあったの?ははー、それは凄いな。
そして、だんだんこの2人共に、死者の影を背負っている事がわかってくる。その辺から、いよいよただ事ではない、単に東京を出てふらっと田舎に来た話じゃないんだ、という事が明らかになるんですが、その辺りのだんだん過去がわかってくる語り口は、予め計算されたものなんですか?どの辺りで過去を明かそうとか。

鶴岡監督:あまりそういう(計算する)のは得意じゃなくて。ここでこういう事を明かしていこう、というプランを立ててやったというよりは、陽平という人間と、時子という人間が出会って、その過ごしている2日間をどう描くかという事ばかりを考えていました。

黒沢監督:2日間の物語か。そんなに短いんだ。同級生のアキホの「3週間彼は学校を休んでいる」というセリフから、もっとひと月くらい一緒にいるものかと錯覚を起こしてしまいましたが。逆に上手いと思いましたよ。たった2日の出来事で、最初と最後がこんなに違っていて、凄い経験をしたように感じさせるというのは。
この主演の2人には、どのような経緯で行き着いたのですか?

鶴岡監督:木下美咲さんは、青山真治監督の『共喰い』で知って。いろいろと資料を探していたのですが、彼女のイメージを超えてくる方は他にいなくて「一度会ってみよう」と直接お会いしたんです。そこでもう他の人は選択肢から消えて、木下美咲さん一択になりました。陽平役はオーディションをしたのですが、泉澤くんは東京藝大の三期生の遠山さんの卒業制作の主人公をやっていて。(遠山智子監督『よるのくちぶえ』)それを観た時に「この子はどこの誰なんだ!?」と思ってすごくびっくりして。泉澤くんに直接会ってみたい、とずっと思っていて、実際にお会いしたらとてもいい方で。

黒沢監督:脚本を書いたり、俳優とかロケ場所とか音楽を選んだり、映画を作るにはいろんな要素があると思うのですが、鶴岡監督にとっては「これだけは絶対に譲れない」というところ、映画を撮るうえで、どこが一番の要と考えますか?「ここで失敗したら駄目だ」とか、あるいは「自分が一番やる気が起きるポイント」とか。

鶴岡監督:難しいですね...。ロケーションでしょうか。ロケ場所を選ぶのが好きなんです。黒沢さんは、ずっと映画を撮られてきて、その(ここだけは譲れない)ポイントは変わらないものなのでしょうか。

黒沢監督:変わらないですね。

鶴岡監督:ちなみに、それは何でしょうか。

黒沢監督:ロケ場所を選ぶ事(笑)それはもちろん、ロケ場所は決定的ですよね。だから上田市という事なのでしょうけど。


―約30分間にわたったトークの一部を抜粋してお届けしました。最後に黒沢監督が仰った「『過ぐる日のやまねこ』は一言で言葉にしづらい、なんとも不思議な映画ですが、皆さんもお友達と一緒にご覧になったなら「どう言ったらいいかな、この映画」と言葉を探すことが、とても楽しいと思います。」という言葉がとても印象的でした。

東京の上映最終日、10月9日(金)鶴岡監督と出演・髙野春樹さんの舞台挨拶があります。また映画をご覧になっていない方、ラストチャンスですよ!

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『過ぐる日のやまねこ』
渋谷ユーロスペース、長野県・上田映劇にて公開中!
【公式サイト】

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